8月25日(金)[第4日目]
今朝は、緊張している。午前中に、ロンドンのハーツレンタカーの営業所に着いて、車を返却して、午後2時頃には、ユーストン駅からグラスゴーに向かう列車に乗らなければならない。また、ロンドン蟻地獄に突入して、無事に午前中にレンタカーを返せるだろうか。と、心配したものの、さすがにレンタカー生活3日目だけあって、ロンドン市内に入って、一度現在位置不明に陥ったが、そこで遮二無二突入しないで、車を止めて検討する余裕が生まれたので、一昨日ほどの惨事にはならずに、午前中に営業所にたどり着いた。レンタカーは、3日間借りて、240ポンド(クレジットカードの日本円請求額は38459円)だった。家族4人の交通費としては、安いだろう。
 ロンドンの鉄道の発着駅は、ロンドンの中心地にはなく、方面別に8つの駅に分かれて市の周辺部に置かれている。わが国の東京駅のように、すべてが一つに集まるのではない。これから私たちが向かう第二の目的地である湖水地方には、ロンドン北西にあるユーストン駅から、スコットランド最大の産業都市グラスゴーに向かう列車に乗る。
この列車は、予約してない。窓口に並んで、切符を買う。ファミリーチケットというのがあって、家族4人分の往復で、125ポンド(クレジットカードの日本円請求額は19647円)。列車で3時間くらいかかるところへ、片道一人2500円かい? おいおい、そりゃいくらなんでも安過ぎようぜ。と、思ったが、間違いないらしい。お得だね、ラッキーと思ったが、とんでもない展開が待っていた。
ユーストン駅は、列車がスタンバイするまで、ホームに入れてもらえない。写真にあるような大きなDeparturesの電光掲示板を見ながら改札を待っている。空港のようである。やっと、OKになって、みんな改札口に走っていく。なんだ、なんだと、ウチの一行も走っていって、グラスゴー行きの列車を見つけて乗り込んだが、シートの背中に荷札が付いていて、Reserve Seatと書いてある。自由席は、どこじゃと走っていくと、全部で10数両の車両の内、リザーブと書いていないのは、前の2両しかない。しかも、既に満員で、デッキに乗り込むのがやっとの状態。やっぱ、イギリスをなめちゃいけないよ。仕方がない、3時間でも床に座っていこうとワタシは覚悟を決めたが、ウチのたくましいツマが、血相変えて、ホームを走っていって、しばらくして戻ってきて、「追加料金払えば、ファーストクラスに替えてくれるけど、どうする?」と訊く。折角お得なファミリーチケットだったが、4倍払っても、座っていくかと、ファーストクラスの車両に急いで移動した。ファーストクラスは、自由席の惨状が嘘のように空いていて、ワタシだけ一人離れたが、あとの3人は、同じボックスに席を取ることができた。ホッとしたとたんに、列車は、グラスゴーに向けて走り出した。
座ったのはいいが、どうも様子が変だ。車掌が来て、追加料金を払って、この席が自分のものだという確認をしたい。ところが、車掌は来ないし、止まった駅から乗り込んできた人も、指定席を確認する素振りもなく、空いている席に座ったり、その内には、立っている人も出てきた。おいおい、イギリスのファーストクラスは、指定席じゃないのかよ。それにしても、暑い車両だな、イギリスの特急は、冷房もないのかよ。たまらんな、どうなってるんだよ。その内に、車内販売の売り子が、ミネラル・ウォーターのボトルを配り始めた。お、イギリスのファーストクラスは、水をただで配ってくれるのか、こりゃ有り難い。とにかく暑くてのどが渇いていたから、喜んで飲んだ。次の駅に止まって、ホームから段ボールが積み込まれた。売り子が、それを開けて配り始めた。なんと、アイスキャンディである。あまりウマイものではなかったが、イギリスの列車はサービスがいいなと感心していた。次第に、下車駅オクスンホルムが近づいてきた。「このまま、追加料金払わずに降りちゃってもわからないよな」とも思ったが、律儀なツマが、車掌を呼び止めて、切符を見せて追加料金を払うと言った。車掌がペラペラとツマに説明している。ツマがサンキュー、サンキューとニコニコしている。どうしたんだ? 「この車両は、冷房が壊れてしまったので、ファースト料金はいらない。ご迷惑をかけて申し訳ないって、水やアイスキャンディをくれたのよ」。はあ? 何万も追加料金払う覚悟でいたのに、なんというイギリスの大らかさ。よいね、よいね、暑いの我慢しちゃうよ。
ユーストン駅から3時間、夕方5時半頃、湖水地方への乗換駅オクスンホルムに降りた。もう周りは、羊が草をはむ丘陵地帯である。ここから20分ほどの支線に乗って、湖水地方の拠点であるウインダミアに向かう。駅のホームに「ウインダミアへの電車は、このホームから発車します」と日本語で書いてある。日本人観光客が多いことがうかがえる。ここにも、日本人らしいカップルや、グループがいくつか待っている。すぐに、乗り換えの電車がくるはずが、一向に来ない。また、なんかあったのかね?とイライラしているが、周りのイギリス人達は、別の驚く様子もなく、のんびりと談笑している。結局、一時間くらい待たされて、やっとウインダミア行きの2両編成のジーゼルカーが来て、終点のウインダミアに降りたのは7時を回っていた。
ウインダミアの駅を降りて、また、驚いた。周りは、なんにもない殺風景なところ。実は、綺麗な街は、駅をほんの一歩過ぎたところから始まっていたのだが、初めて来た観光客には、なんて寂れたところに来てしまったのかと、驚かされた。今日の泊まるホテルには、どう行ったらいいのか、たった一人いる駅員に訊いたのだが、よくわからないので、タクシーに乗ることにした。
タクシーの運転手は、70歳くらいとも思えるかなりのご老人だったが、走り出してすぐに、スーパーマーケットの前に止まって、車を降りて店に入っていく。しばらくして、買い物袋を下げて戻ってきた。店が、もうすぐ閉まるので、妻に頼まれた買い物をしてきたと、ニコニコしながらツマに言った。オー、ワンダフルとかツマがお愛想を言っている。うーん、客を待たせて、私用の買い物か。それがイギリス流かい。日本人には理解できんのう。でも、ペラペラとひっきりなしにツマに説明している。観光案内をしているようだ。降りるとき、6ポンドの表示が出ていた。ツマが、お釣りは結構よと、10ポンド紙幣を渡した。おいおい、チップにしちゃ多すぎるんじゃないか。
ウインダミア湖のほとりに立つ、ホテル・ローウッドに着いたのは、夜8時に近かった。

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