8月27日(日)[第6日目]
今日は、午後2時頃にオクスンホルムを出る列車で、ロンドンに帰る。ファミリーチケットは往復だから、切符は買ってあるのだが、指定席ではないから、またどうなるかわからないが、どうにかなるだろうと腹をくくっている。
9時頃、ホテルをチェックアウトして、タクシーでウインダミアの駅に向かう。午前中は、湖水地方の名残を惜しむ。大きな荷物が邪魔だなあ。イギリスの駅には、およそコインロッカーのような便利なものは期待できない。ツマがタクシーの運転手に、荷物を預かってくれるところがないか訊いている。すると、タクシーは、駅の手前のスナック(なんと言ったらいいのだろう。サンドウィッチやコーヒーなど簡単なものが食べられる軽食堂)の前で止まった。おいおい、朝食はもう食べてきたのに。すると、運転手が、車のトランクから、我々の大きな荷物を取り出して、スナックの中に運び込んだ。カウンターから、スナックのマスターが出てきて、ニコニコしながら荷物を受け取って、野菜や果物が入った押入みたいなところにしまった。1個に付き1ポンド払った。
荷物を預けて、足取りも軽く、ボウネスまで歩くことにした。住宅街を歩いた。「日本人は、ウサギ小屋に住んでいる」と日本の住宅事情の悪さを揶揄したのはイギリス人だったが、さすがに言うだけのことはある。イギリスにはコインロッカーも自動販売機もゲームセンターもないが、家だけは立派だ。敷地も広く、イングリッシュ・ガーデンも素晴らしい。途中に不動産屋があって、日本と同じように、ガラス戸に物件が貼ってあるのだが、安い。日本だったら億はするだろうと思うような、かなり広い家が3000万円くらいである。ツマとムスメは、「イギリスに住みた〜い!」と合唱している。
ボウネスの桟橋から、アンブルサイド行きの観光船に乗った。昨日の渡し船よりはイイ船で、2階建てバスのようにオープンの席である。今日は、天気もいいし気持ちよい。ホテル・ローウッドの前を通る。少し行くと、船着き場付きの別荘らしい。また、ツマとムスメが「あんなところに、住みた〜い!」と合唱している。
アンブルサイドで降りて、街をぶらついて、ムスコお気に入りのバスで、ウインダミアの駅に戻り、例のスナックに寄って荷物を受け取った。ちょうど、お昼過ぎで、駅の脇にある軽食堂(日本で言えばファーストフードの店なんだろうが、ちょっと違うよな)で、ビールと昼食。
オクスンホルムで、また、随分待たされたけど、ロンドン行きの列車は、行きほどは混んでいなかった。席は、一緒には取れなかったが、同じ車両に分かれて座ることはできた。車窓を楽しんだり、旅行書を読んだり、居眠りしたりして、3時間の列車の旅は、行きほどのドラマもなく、夕刻5時過ぎ、無事にロンドン・ユーストン駅に到着した。
駅から歩いてすぐのところに、ロンドンで最後の3泊をするホテル・ロイヤルナショナルがあった。ロイヤルナショナルと、名前は壮大だが、規模がデカイだけで、それほど高級なわけではない。フロントのネーチャン(あえてそう呼ぶほど応対は悪い)など、「お前、少しは、日本へ行って、ホテルマンの勉強して来いよ!」と説教したくなるほど悪い。日本のホテルなら、もっと下級でも、応対はしっかりしている。大英帝国にいつまでもしがみついてないで、サービスの勉強をしなさい。
フロントのネーチャンの対応が悪かったせいばかりではなく、ロンドンに来たからには、日本料理の店に行こうと、荷物を部屋に置くと、さっそくロンドンの街に繰り出した。旅行書で調べた日本料理の店を目指して、4人とも、「寿司が食いて〜!」とか、「みそ汁飲みて〜!」とか、「お米が食べた〜い!」とか、大騒ぎしながらお目当ての店に着くと、なんと、無情にもシャッターが閉まっていて、本日休業である。
4人のショックは大きく、ありつけないとなると、余計に食べたくなる。もう、とてもあのワンパターンのステーキなど食べられるものじゃない。とぼとぼと歩いていると、なにやら遠くに漢字のようなものが見える。歓声をあげて走っていくと、間違いなく日本語である。ヤッター!と、迷いなく店に入って、テーブルに座って、そこで、2年前に、少しヨーロッパを旅したことのあるワタシには、ピンときた。
メニューは、日本語で様々にある。寿司、丼もの、そば・うどんから、煮魚定食みたいなものまである。あれもいい、これもいいと迷ったが、結局我が家の日本食極めつけは寿司。とりあえず、寿司と、ヤキトリと、枝豆と、冷や奴と、瓶ではあったが間違いなくアサヒ・スーパー・ドライを頼む。怪しげな日本語のオネーサンが、「アリガト、ゴザイマス」とか言っている。ワタシの経験では、パリでもローマでもマドリッドでも、日本料理の看板を掲げている店の8割がたは、日本人の経営ではない。台湾、香港辺りの方々の経営である。華僑パワーは、今も世界中に根強い。
でも、日本食に飢えていた我々は、とりあえず、出されたものにパクついた。ちょっと、寿司にしちゃ、ごはんがグチャグチャしているが、ま、いいか、間違いなくお米なんだから。ほんとに、日本人に生まれてよかったな。お米ほど、ウマイものは、世界中にないよな。あれ、この冷や奴、5ポンドもするぜ!800円かよ。このヤキトリ、冷凍だ! お腹がふくれてくると、あれこれ文句も出てきたが、まあ、久しぶりに、日本食にありついて、全員満足。でも、支払いで、ギョッとした。130ポンド(=約2万円)。日本でだったら驚かないが、物価の安いイギリスで、これは高い。ふだん、結構厚いステーキを食べてもこの半分くらいで済んでいたのに、日本食は高い。輸入品だから当たり前か。その地の食べ物に親しまなければ旅の意味がないということか。帰りには、その地の安いワインを買って帰って、明日からのロンドン観光を検討しながらツマと乾杯した。
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