8月30日(水)[第9日目]
ホテルをチェックアウトして、9時前頃、地下鉄ピカデリー線でヒースロー空港に向かう。地下鉄と言っても、市街地を過ぎると地上を走ることが多くなるので、皆無言で車窓から見えるイギリスの風景に別れを告げている。我が家は、ワタシ以外は、地味で質素で堅実をモットーとしている人達なので、重厚な歴史と伝統を誇りながら、地味で質素で堅実なイギリスの在り方にエラク感動したようで、ツマもムスメも「また、来ようね!」「また、来たいね!」と手を取り合ってイギリスに別れを告げている。
10時頃、空港に着いて、出発便のモニターを探して、自分達の乗る飛行機を確認した。予定通りの出発時間で胸をなで下ろした。実は、空港に着くまで、メランコリックなイギリスとの別れとは裏腹に、憂鬱に心配していたことがあった。日本の旅行会社で、往復の航空券を買ったのだが、「帰りの飛行機のリコンファームは必要ありませんが、出発時間が変更になることもありますので、前日に空港へ電話して確認して下さい」と言われた。
が、昨日の晩、ホテルで、その電話をかける決心がつかなかった。面と向かって話すのなら、表情や手振り仕草も手伝って、単語並べ英会話でも、なんとか切符くらい買える。ところが、電話となると、それなりに通じる文章で述べなければならないし、向こうに何か言われたら、英文解釈で理解しなければならない。面と向かっていれば、相手の表情や指さしでなんとかわかることも、電話となるとちゃんと英語がわからなければ対応できない。ワタシはツマに力強く言った。「大丈夫、いくら出発時間が変わるといっても、イギリス人はのんびりしているから、離陸時間が早まることはない。出発時間が遅れることはあっても、早まることなど絶対にないさ! だから、・・・・早めに行けば大丈夫だよ!」。「そうね、イギリス人が、予定より早く出発するなんて、・・・・考えられないわよね!」とツマも強く納得して、それで昨夜、電話はしなかった。だから、予定通りの出発時間を見て、気が抜けた。
チェックインして、空港の免税店で、余ったポンドで買い物をして、搭乗口への長い通路を歩いていく。ロンドン市内で買った商品には17.5%の付加価値税が付いており、帰国時の手続で14%分くらいが返ってくるとのこと。出国審査の手前に免税手続のカウンターがあるとのことで、注意しながら歩いていく。すると、誰にも止められず、なにもしない内に、自分達の乗るべき飛行機の搭乗口に着いてしまった。ヴァージンアトランティックの制服を着た女性が入っていく客の航空券をチェックしている。
「あれっ!うそだろ?ここくぐったら、もう飛行機の中だよ。飛行機に乗る前に、パスポート見せたり、免税手続きしたりするだろ?どこにそんなのあった?」。あわてて、引き返した。出国手続きもせずに、飛行機に乗ってしまってはまずいだろ。でも、ヘンだよな。自分達だけ、ヘンな通路を来たのではなく、他の人達と一緒にちゃんとした通路を歩いてきたのに、パスポートを提示するところもなかったぞ。EUは、パスポート無しに往来できるといっても、我々は日本人だから、フリーパスじゃまずいだろ。ま、パスポートは、どうでもいいや。とにかく免税手続で、いくらか返金してもらわなきゃ。
ところが、ぜんぜん見つからなくて、出発時間は近づいてくるし、はした金(でもなかったのだが)惜しんで、飛行機に乗り遅れたのでは、元も子もないし、返金は諦めて、急いで飛行機に乗り込んだ。「ヒースロー空港は、どうなってるんだ?」という我が家の不満を抱えたまま、ヴァージンアトランティック航空VS900便は、午前11時50分、成田を目指して、ロンドン・ヒースロー空港を離陸した。
2年前のヨーロッパ旅行で、スペイン→イタリア→スイス→フランスと旅したとき、スイスだけはEUじゃないからパスポートの提示が必要だと添乗員が言っていたにもかかわらず、スイスとフランスの国境には、ゲートは開かれたままで、係官も立っておらず、フリーパスで、国境というものを知らない日本人としては、国境を超える緊張感が味わえずにがっかりしたものだ。イギリスもEUで、パスポートの厳密な管理体制はなくなりつつあるのかもしれない。免税手続については、この旅行記を書くに当たって「個人旅行」を読み返したら、イギリスの免税手続は、成田空港でもできるらしいが、もう書類もなくなってしまったので、喜んで世話になったイギリスに納税しよう。
|