直線上に配置

「調理V」授業風景
−世界の家庭料理−
03.07.04

 かつての専門学科「家政科」のカリキュラムは、被服と調理という二大分野で構成されていました。ところで、農業科が農業後継者の育成、機械科が中堅技術者の育成という明確な職業教育の目標を掲げていたことに比べれば、家政科は「アパレル技術者の育成」とか「調理師の育成」とかの職業教育を目標に掲げていたわけではありません。実際のところ家政科の卒業生は、昔は高卒労働市場だった都市銀行や中小企業のOL(事務職)に就職していった者が多く、被服や調理の技術者になった者は少ないとさえ言えます。つまり「家政科」は、職業教育と言うよりは、「伝統的な良妻賢母の女子教育」を目標としていたのです。にもかかわらずと言ってはなんですが、専門学科時代の「家政科」は、本校でトップの人気学科でした。専門学科時代末期でもたくさんの志願者があって人気を誇っていました。「女子には被服と調理が大切」という地域社会の保守的文化に支えられていたと言えるでしょう。

 さて、総合学科に改編して、技術者育成の専門学科ではなく、ましてや「良妻賢母の女子教育」は現代の教育目標にはならず、家庭科を中核とする新系列は、「生活・人間科学系列」として生まれ変わろうとしています。衣食住のあり方から人間生活向上の問題を考え、また、少子高齢化社会の課題から福祉向上の問題を考え、これらの課題に主体的に取り組む人材を育てることが総合学科における家庭科を中核とした「生活・人間科学系列」の目標となります。

 「調理V」は、旧系列の科目で、T・Uの積み重ねの上にある発展科目です。新系列では、「クッキングU」という科目に考え方は引き継がれます。主な科目の目標は、「和洋中の調理に関する知識・技術を習得することで食事を総合的にデザインする能力を身につける」「病態栄養と食事構成の基本を習得する」「日本と世界の食文化を理解し、食を通して、国際交流に寄与できる態度を養う」などであります。調理の知識・技術の習得だけを目標とするのではなく、食という人間の基本的な営みを文化としてとらえて、食を通じて人間生活の向上や福祉社会の問題を総合的に考えさせようとするカリキュラムの意図がうかがえます。

  「世界の家庭料理」という指導項目を3日にわたって取材しました。6月26日(木)は、パソコン室で、インターネットを使って、「世界の家庭料理」を検索し、2名一組の実習班の自由献立を作成させます。その際に、「その国の気候・風土や生活様式と食事の関係を考えなさい」「その国の特産物や豊富な食材など、第一次産業の特色と食事の関係も考えなさい」などの指導が科目担任教諭から出ていました。
フレーム フレーム

 7月3日(木)は、保育看護実習室で、前の週から作成した「世界の家庭料理」の自由献立を各班別に発表します。「自分で調べて、自分でまとめて、発表する」というのは「総合的な学習の時間」の基本的な形式ですが、本校では教科・科目の学習でもしばしば取り入れられて総合的な学習能力として鍛えられていきます。
フレーム フレーム


  さて、7月4日(金)3・4時限(10:45〜12:25)は、いよいよ「世界の家庭料理」のテーマで各班が作った自由献立の実習です。
フレーム
 これが、本日のメニュー一覧です。実に、バラエティーに富んでいます。

フレーム フレーム
 実習教室は、本校の誇る「調理実習室」です。普通科目「家庭一般」でも、40名がゆっくりと調理実習できる、設備の整った広い実習教室です。この日は、生徒達が自ら作った自由献立ですから、先生の説明や示範はなく、授業開始のチャイムも鳴り終わらぬ内に、すでに22名・11班の生徒達は、実習に集中しています。  この班は、ラムを使ったニュージーランド料理に挑戦です。
 この科目の受講者は、実習費として年間約9000円を負担します。実習で使われる食材は、実習費で購入されます。

フレーム フレーム
 科目担任の先生は、各班を回って、生徒の質問に答えたり、難しいところをアドバイスしたりします。  この班は、ロシア料理のピロシキを作っています。

フレーム フレーム
 12時近くなって、最初にできあがって、試食に入ったのは、インド料理「キーマカレーとナン」を作った班でした。  この班は、イギリス料理「コッテージパイとスコーン」を作りました。

フレーム フレーム
 男子の選択者が2名います。実に、真剣に集中しています。  これが男子班が作ったドイツ料理「ウィーン風ポテトグラタン・パプリカとキャベツとベーコンのスープ・プルストデザート」です。見事なものです。

  ちょっと脇道の話で恐縮ですが、「男の自立は、料理ができること」とわかってきました。「自分の食事を自分で作る」という人間としてもっとも大事な基本的な能力を身につけずに育ってしまった男が多いように思います。実は、私もそうでした。妻がいないと、冷蔵庫を開けて、残っている食材を組み合わせて、夕食を作るなんてことは、かつてはできませんでした。この食材は煮るのか焼くのか、味付けは塩か砂糖か醤油か、どういう順番で炒めればいいのかとか、基本的なことがまったくわからず、インスタント・ラーメンとかコンビニ弁当で済ませていたものです。そういうときは、頭では「女性の自立・社会進出」を理解していても、身体は「妻が作ってくれる食事」を待っていたのです。自立していないのは男なのです。やがて私も、艱難辛苦を経て成長し、妻のいないときには、冷蔵庫を開けて、残っている食材で簡単な料理を作るようになりました。と言ってもごっちゃまぜの野菜炒めとか残り飯のチャーハンくらいですが、そんなものでも子ども達は「お父さんが作った夕飯だ」と喜んで食べてくれます。妻が仕事で遅くなることも、少しも苦にならなくなりました。失敗もしました。チャーハンにキャベツを入れると、キャベツから水分が出て、グチャグチャになってしまうこともやってみて知りました。いろいろ試してみるのも面白くなりました。そのたびに、料理に関する基本的な知識・技術がないことに気がつきました。定年退職したら料理学校に通おうと心に決めています。「料理のできない男は自立できない」、これが最近、私の発見した人生の真理です。

閑話休題!

フレーム フレーム
 この班は、ニュージーランド料理「ラムレッグのドライフルーツ煮・野菜たっぷりキッシュ」です。  ドイツ料理「リンダロ・ラーデン(牛肉ロール)・ポテトとソーセージのスープ」です。お味は、どうかな!

 食べることは、人間生活の基本です。「食べる知恵」は、きっと「生きる力」の基本です。本校旧家政科の「調理」の伝統を生かして、総合学科における新設「クッキング」が「食文化を通じて人間生活を考える総合科目」に発展していくことを期待しております。


トップ アイコントップページへもどる

直線上に配置