式 辞
本校第60回生、総合学科第12期生の新入生諸君、入学おめでとう。本校は、心から諸君の入学を歓迎します。また、新入生の保護者の皆様に、お子様のご入学を心よりお祝い申し上げます。
本日ここに、本校第60回入学式が挙行できますことは、本校として大きな喜びであり、お忙しい中、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様には厚く御礼を申し上げます。国立大学が法人化されて2年目を迎えます。本校は、「総合学科高校の実験的実践を行う研究校」という国立大学法人筑波大学の設置目的を果たしつつ、地域社会に信頼される地元の高等学校としての伝統を大切にして今後も努力を重ねていく所存ですので、どうかよろしくお願いを申し上げます。
さて、新入生諸君に申し上げます。本校は、日本で最初にできた総合学科高等学校であります。総合学科が誕生して十二年目を迎え、今年度には全国に二百六十校を超える総合学科高等学校が設置されておりますが、この総合学科の諸課題に先進的に取り組み、その成果を全国に発信して、総合学科の歴史をリードしてきたのは本校であります。そのような総合学科高等学校のパイオニアとして高く評価されている本校に入学したことの自覚をしっかりと持っていただきたいというのが第一のお願いであります。
それでは、総合学科の生徒はいかにあるべきなのでしょうか。考えていただきたいことはたくさんあるのですが、ここでは、一つだけお話しをさせていただきます。18世紀のドイツにカントという哲学者がいます。人間の本質は理性であるという哲学を展開して近代以後の思想に大きな影響を与えた大哲学者です。このカントが、弟子たちに問いかけます。「森に住む獣たちと、人間とはどちらが自由だろうか?」と質問します。弟子たちは、「人間は、法や道徳や習慣に縛られているから不自由ですが、森に住む獣たちは何者にも縛られずに自由です」と答えます。
するとカント先生は、「そうだろうか?森に住む獣たちは、感性的な欲望、すなわち自然法則のままに生きている。食欲や性欲などの欲望から自由ではあり得ない。それに対して、人間は、欲望という自然法則のままには動かされない。人間も動物であるから欲望を生じるが、人間は欲望の通りには行動しない。自分は今どう行動したら人間として正しいのかを考える。つまり、自然法則の言うなりにはならず、自らの理性で、自らの正しいあり方を選択していく。森に住む獣たちは、自然法則にのみ従って生きるしかないが、人間は、自らの理性で自らの正しいあり方を選択する自由がある。だから、人間こそ自由な存在なのだ」と教えたのです。
これを「自律としての自由」と言います。自律、自らを律する、自らで選択し、自分で自分をコントロールして、自分で責任を取る、これが総合学科の生徒にとってもっとも大切な心構えであります。本校の生活目標は、「自由・自律・自覚」ですが、このことをしっかりと理解して、充実した高校生活が送れる生徒になって下さい。
次に、新入生の保護者の皆様に申し上げます。本校は、伝統的にPTA・後援会・桐蒼会という三つの団体が学校及び教職員を力強く支援して下さって、筑坂ワールドともいうべき温かい雰囲気を作っている学校であります。新入生の保護者の皆様は、本日よりPTA・後援会の新しい会員でいらっしゃいます。学校での様々な行事に積極的にご参加をいただき、お子様たちの成長する姿を見続けていただきますと共に、私たち教職員とも密に連絡を取り合い、学校とご家庭とがお互いに力を合わせて、お子様たちの健全な成長を促進していきたいと願っております。また、本校は常に学校改革に取り組んでいる発展途上の学校でありますので、様々な面で保護者の皆様のお力をお貸しいただければ幸いであります。ご入学をお祝い申し上げると共に、本校への力強いご支援をお願い申し上る次第であります。
この春は、桜の開花が遅くなりまして、おかげ様で、桜花爛漫のこの佳き日に入学式ができましたことを皆様と共に喜び、新入生の実り多き高校生活を祈念して、第60回入学式の式辞といたします。
平成17年4月8日
筑波大学附属坂戸高等学校長 服部 次郎